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安倍氏のいう「美しい国」とは?

 今日、安倍官房長官が書いた『美しい国へ』という本を読みました。
 黒猫は、実はこの安倍晋三という人物が大嫌いで、テレビで安倍さんの映像が出てくると「引っ込めこの軍国主義者!」とか、「こんなやつ総理にしたらろくなことにならない!」などとつい怒鳴ってしまうのですが、そういった感情論は抜きにして、今回はこの著書についての客観的論評を書きたいと思います。 

 まず、目次で本の構成を見ると、
第1章 わたしの原点
第2章 自立する国家
第3章 ナショナリズムとは何か
第4章 日米同盟の構図
第5章 日本とアジアそして中国
第6章 少子国家の未来
第7章 教育の再生
という7章立てになっており、内政問題より外交問題・国際問題にかなり大きなウェイトを置いていることが分かります。逆に言うと、国家財政の健全化・公共事業の見直し・産業の活性化といった経済的問題についての言及は見当たらず、このあたりは安倍氏の「関心が薄い分野」あるいは「不得意分野」ということなのでしょう。ついでに言うと、司法制度に関する言及も全く見当たりません。
 安倍氏は、総裁選立候補にあたり、たしか憲法改正を第一の政治課題に挙げていたはずですが、この本には憲法改正問題について直接の言及も見当たりません。ただ、自衛隊の海外派遣と関連させて、憲法第9条第2項についての批判を第4章でかなりのページを割いて繰り広げており、安倍氏が憲法第9条の改正に強い関心を示していることは本書からもうかがい知ることができます。憲法問題について第9条以外への言及が見当たらないところを見ると、安倍氏の頭の中では、憲法改正問題とはすなわち「憲法第9条改正問題」なのかも知れません。

 続いて中身の論評に入っていきますが、外交問題が主要なテーマとなっている第2章から第3章にかけては、北朝鮮の拉致問題についての経緯やエピソードがかなり細かく書かれています。拉致問題は、安倍氏の人気を高めるに至った同氏にとって最大の「政治的業績」ですから、心情的に自慢したいのは分かりますが、拉致問題について強硬な政治姿勢をとり続けてきたということは、直ちに総理大臣としての資質を示すものではありませんから(言い換えれば、総理大臣は強硬な政治姿勢をとり続ければ務まるような生易しい役職ではありませんから)、このへんの自慢話はあまり重視すべきではないでしょう。

 そして、靖国問題については第2章の終わりで言及されており、頭にくるほど強引な議論が展開されています。
 まず、憲法違反の問題については津地鎮祭訴訟の最高裁判決に言及し、これを根拠に「参拝自体は合憲と解釈されていると言ってよい」などと書かれていますが、靖国神社への参拝に伴う玉串料の支出については、平成9年の愛媛玉串料事件際高裁判決がはっきり違憲であると述べており、小泉総理の靖国神社参拝についても、傍論ながら高裁レベルで違憲と述べているものがあるくらいですから、この点についての安倍氏の記述は全くの虚偽であると言うほかはありません。
 そして、A級戦犯問題に関しては、実際にA級戦犯として有罪判決を受けながら、後に赦免されて法務大臣や外務大臣になった人の例を挙げて、A級戦犯は国内法上の犯罪者ではないとした上で、国のために戦い亡くなった人を尊崇するのは当然のことである、というような議論を展開しています。
 しかし、これは故意による論点のすり替えとしか評価のしようがないものであり、戦後にA級戦犯として処刑された人々は、わが国のために戦争の犠牲になった人というよりも、無益な戦争を引き起こし日本のみならず東アジア全体に戦争の惨禍を巻き起こした責任者として断罪された人々です。そのような人々を戦争犠牲者と一緒にして「尊崇」すれば、参拝した本人の認識はともかく、戦争によって大切な家族や財産を失った諸外国の人々にとってそのような行為がどのように映るかという重大な問題について、最低限の良識と人間性に対する洞察力を持った人間であればそれなりの考察と言及があって然るべきでしょう。しかし、安倍氏はそのようなことには全く言及していません。
 もしこの本が翻訳されて中国や韓国などで出版されたら、「安倍氏は過去の戦争に関する反省の色が全くない」と猛烈なバッシングを受けるのではないでしょうか。安倍氏は、図々しくも第5章で日中関係には「政経分離の原則を作る必要がある」などと書いていますが、それを中国がおとなしく受け入れるとでも思っているのでしょうか。このような人物に、中国や韓国をはじめとする東アジア諸国との外交改善が務まるとは到底思えません。

 第6章以下では、少子化問題・社会保障問題と教育問題についての言及がなされていますが、家族を持つことは損得を超えた価値があることを育んでいくことが大切であるとか、子供たちに国に対して誇りを持たせるべきであるとか、なんとなく精神論的な記述が目立つ上に、年金制度についてはひととおり制度の説明をして年金制度が破綻することはないと強調するだけで、極端な少子高齢化が進んだ結果年金額が大幅に削減されろくな金額がもらえなくなるのではないか、という多くの国民が持っている根本的な不安にはなんら答えていません。
 そんな中でも、一応具体的政策に言及していると読めるところもあり、これらを列挙すると以下のようになります。
・民間が行うお見合い制度について認証制度などを設ける(173ページ)
・知的財産戦略を推進し、ITやロボットの活用によって労働生産性を高める(175ページ)
・年金の財源については、現行の保険料と税金の併用方式を維持すべきである(193ページ)
・社会保険庁のすべての事業について市場化テストを行う(195ページ)
・脳溢血や女性の骨折防止等の研究を推進し、平均寿命と健康寿命の落差を小さくする(199ページ)
・学習指導要領を見直して、子供の基礎学力の強化を徹底する(209ページ)
・私学も含めた全国的な学力調査を実施し、結果の悪い学校には支援措置を講じ、それでも改善されない学校については強制的に教職員を入れ替える(209〜210ページ)
・教員の質を確保するため、教員免許の更新制度を導入し、年功序列の昇進・給与システムを見直す(210ページ)
・国の監査官による教育評価制度の導入(211ページ)
・大学の入学時期を毎年9月に改め、大学入学の条件として、入学前に3ヶ月間のボランティア活動を義務付ける(213〜214ページ)
 こんなところでしょうか。教育改革についてはずいぶん細かく言及されていますが、それ以外の部分については抽象的な理念の解説にとどまったり、理想的な外国の制度(スクール・バウチャー制度など)に言及しながらも日本でそれを実現する気があるのかについては言及していなかったりと、具体的に何をやりたいのかいまいちはっきりしないところがあります。
 「美しい国へ」という本のタイトルについて、安倍氏の考える「美しい国」とはどのような国を指すのかは、結局本の中でははっきり言及されていませんが、全体の文脈からすると、どうやら「国民が国や地域・家庭社会について自信と誇りを持てる国」というような、かなり精神論的色彩の強い概念であると推察されます。

 自民党の総裁選を目前に控えた平成18年7月に書かれたこの本は、おそらく安倍氏の国民に対する「所信表明」のような意図が込められているのでしょうが、この本を読んで分かることは、安倍氏はかなりの精神論至上主義者であること、教育改革問題以外については大した政策通ではないこと、そして外交問題については救いようのないほどのタカ派であることが分かります。
 安倍氏には閣僚経験もありませんし、このような本しか書けないようでは、具体的な政策を実行しようとする場面では官僚たちに言いくるめられてしまうだけでほとんど何もできないでしょうし、本に書かれた内容やこれまで報道されている安倍氏の諸言動から推測しても、靖国参拝を強行して東アジア外交を現状よりさらに悪化させることはほぼ間違いないでしょう。  
 また、小泉総理には、こればかりには感心せざるを得ない国民世論に対する鋭い嗅覚のようなものがあって、これまで具体的な政策についての評価は低いのに内閣支持率だけは高いという不思議な状態が続いてきましたが、まだ政治家としては若い安倍氏にそのような「天才的嗅覚」があるとは思えませんから、高い支持率を長期間維持することも難しいと思われます。おそらく、国民世論との兼ね合いを無視した露骨に保守的な憲法改正案を出したりして自滅するのがオチでしょう。

 結論。安倍氏は内閣総理大臣としては明らかに不適格だと思います。
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黒猫

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