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『ジュリナビ』が変なこと言ってます。

 別の弁護士さんが運営しているブログ経由で見つけた記事です。ちなみに『ジュリナビ』というのは,法律家向けの就職情報サイトの1つで,下記リンクから引用した記事は,ジュリナビ調査(2012年4月)『新64期生弁護士未登録者の行方』の一部です。

https://www.jurinavi.com/topics/buzz/buzz26.php?from=news

 記事のメインは,今年の1月時点で司法修習を終えながら弁護士登録をしなかった「未登録者」の推移に関する数値情報で,1月時点で未登録者は220人いたところ,4月20日の段階ではそれが129人に減っているとされ,その具体的な内訳が掲載されています。弁護士登録者のうち即独推定者が65人というのは,調べ方に問題があるか「即独」の範囲が狭すぎるのではないかという疑念も残りますが,この記事で問題にするつもりなのは,それに続く調査結果の解説文です。
 なお,以下赤字部分が解説文からの引用です。

女性弁護士未登録者数の激増
 注目すべきは、この弁護士未登録者129名のうち女性の数が62名で、全体の48%と約半数を占めていることです。年初の調査では女性の未登録者に占める割合は37%でしたので一般に言われるよう年齢の高い修習生と同様に女性が、事実上の差別を受け、就職が困難な状態に陥っている可能性があります。一見公正である法曹関係においても立場の弱いところに問題のしわ寄せがされているということです。

 そんなの当たり前でしょう。司法試験の合格者数を激増させて全てを市場競争の原理に委ねれば,市場競争力の弱い女性にしわ寄せが行くのは目に見えています。実際,弁護士として登録してからも,女性弁護士の平均年収は男性弁護士の半分くらいにしかならないという話を聞いたことがあります。
 公務員である裁判官や検察官は女性にとっても働きやすい職場で,実際に女性の裁判官や検察官も最近では珍しくありませんが,弁護士は基本的に自営業者です。業界の事情を多少なりとも知っている人なら,そもそも弁護士の労働市場が「公正」であるなんて思っていませんよ。

弁護士事務所新人弁護士採用の頭打ち
 弁護士事務所採用数は、今回初めて前年比で若干ではありますが減少しています。新64期生については、我が国の景気の低迷による企業関係の法律業務の減少の影響もあり4大事務所を中心に規模別上位20事務所の新人弁護士の採用数は新63期生と比べ約2割近く減少しており、こうしたことも影響しているのでしょう。外資系事務所はリーマンショック後、より敏感に中国シフトを進め、東京の事務所規模を縮小し、新人弁護士の採用は極めて少なくなりました。弁護士需要の頭打ちが言われますが、どこまでが新しい法曹養成制度による法曹人口増加によるものか、または、景気低迷によるものなのか(最近の大学新卒の就職状況は法曹界と無縁か?)は慎重に検討されるべきでしょう。

 新人弁護士の需要が頭打ちになっているのはそのとおりですが,景気低迷ではなく「法曹人口増加」が直接的に新人弁護士採用の頭打ちを招いているというのはどういう意味でしょうか。60期から63期あたりまでの先輩が64期の需要も食い潰してしまったという意味なのでしょうか?
 仮にそのような現象があるとしても,求人減少の原因として両者を厳密に区別することは困難であり,また仮にどちらの原因が大きかったとしても,それを理由に「司法試験の合格者数を増やせ」という結論を導くのは論理的に困難でしょう。

企業就職者の増加
 一方、企業の新人弁護士採用は、82名になり過去で最も多い数となりました。年末までに弁護士事務所で採用が決まらなかった修習生が流れて企業に職を求めて行った結果となっています。また、企業採用は4月就労開始を予定するため、弁護士登録も4月にずれ込んでいることもあります。修習生の組織内弁護士に対する理解も以前と比べ改善してきているようです。法曹人材の供給余力が出始めていることもあり、企業にとり、中途採用も含め、弁護士採用はますます容易になってきているようです。もし、企業や官公庁などが、司法試験合格発表前後から求人活動を活発化してくれれば、修了生の法廷弁護士への過剰な意識も変わり弁護士未登録者数は確実に少なくなるものと思われます。
 また、司法試験に合格しても司法修習に行かず、企業や官公庁に就職する修了生も増加しており、実際の法曹有資格者の法曹三者以外への就職者は相当な数になってきています。従い、単純に弁護士事務所への就職が頭打ち傾向ということで司法試験合格者数を減ずることが果たして正しい選択か検討の余地は大いにあるでしょう。むしろ、多数の司法試験合格者数を社会に出したからこそ、着実に法曹三者以外の職に進むものが増加してきたと言えるのでしょう。過去のように極めて法曹の供給が限られていた時代には、法曹三者以外への人材供給は殆ど不可能でした。

 本来,企業や官公庁に就職するつもりなら法学部を出れば十分であり,法科大学院を修了する必要などありません。司法制度改革関連法案が国会で審議されたとき,司法制度改革審議会会長の佐藤幸治氏は,企業や官公庁などへの就職者を含めたジェネラリストの養成機関であった従来の法学部と違い,法科大学院は「法曹養成に特化した教育機関」である,従来の法学部教育では学生全員が法曹を目指すわけではなかったので法曹養成に特化した教育ができなかったが,法曹養成に特化した法科大学院という教育機関を設けることで大学が法曹養成に責任を持つんだなど主張して,その必要性を訴えていました(近日中に別の記事で改めて引用するつもりですが,今読み返すと思わず笑ってしまうような内容です)。
 教育内容が実務法曹の役に立っているかどうかはともかく,仮にも法曹(主に法廷弁護士)の養成に特化した教育機関を標榜している法科大学院を修了したのであれば,進路先としてもまず法廷弁護士を志向するのはごく自然なことです。修了生のそのような意識を「過剰」というのはいかがなものかと思いますし,企業や役所の側も,若いうちから自分達に必要な人材へと育成できる法学部卒業生などではなく,わざわざ法廷向けの特殊な教育を受けた「法曹」や「司法試験合格者」を雇いたいという需要は,本来あまりなかったと思われます。
 弁護士になれない司法試験合格者を企業や役所で活用するというのは,法科大学院本来の設置目的に沿うものではなく,いわば廃物利用の発想に過ぎません。

即独推定者の増加
 いわゆる即独推定者は、事務所を構え弁護士業を開始している新64期生は41名であり、単に弁護士登録をし、恐らく求職中であるものが25名となっています。昨年比で若干増加しています。
 即独が、新人弁護士としてOJTが受けられないとし、質の低下に結び付けられ、更に、即独を就職難の象徴として司法試験合格者数減をすべきとする意見があります。しかし、即独には種々問題があるとしても、必ずしも、すべての即独が、就職難からこれを選択したものでもないのであり、また、その総数も全体からみれば極めて少数です。もし、法曹人口削減の口実ではなく本当に新人弁護士のOJTの機会を十分に与えるべきと法曹界が考えるなら、ノブリスオブリジェとして有力事務所や弁護士が、全国で即独推定者がこのくらいの数であれば、これら新人をしかるべき条件(必ずしも平均水準でなくても)で一時雇用するようなことは可能ではないでしょうか。一部の法科大学院が、自身の法律事務所を設立し、そこで、少数ながら新人弁護士を雇用する計画もあるようですが、法曹界自身が固定概念に囚われず創意工夫すべきではないでしょうか。尚、即独推定者の中では女性の割合は10%以下と極めて低くなっています。やはり、依然、男社会の我が国では、即独は女性にとりハードルが高いようです。

 もともと,良心ある一部の弁護士さんたちは必死に工夫しているんですよ。経済的に新人など雇う余裕のない弁護士でも,自分のところに回ってきた事件の一部を共同受任という形で新人にやらせたり,新人弁護士が事件処理に困ったときなどの相談窓口を弁護士会に開設してその相談担当を引き受けたり,弁護士会の会誌に事件処理関連の超初心者向け記事を載せたり。
 もっとも,即独支援に関するそのような努力の恩恵を受けられるのは,新人の中でも相応の能力と意欲がある人だけですし,最近は法律事務所に就職しても短期間でクビになる(もしくは自主的に退職する)新人が多いので,OJTの機会や経験に問題のある即独やそれに近い弁護士の数は,累計ではかなりの数にのぼっていると推測されます。
 弁護士会によるそのような即独支援もいい加減限界に達しており,さらに弁護士会自体も会費が異様に高いとの批判を受け,会費負担の削減や弁護士会自体の任意加入化なども主張されている今日において,誰が「ノブリスオブリジェ」として新人弁護士の雇用という責務を果たしてくれるというのでしょうか。
 ちなみに,弁護士業界の中でも,大手法律事務所の弁護士には未だに増員賛成派が多いようですが,彼らも新人の採用を大幅に減らしていることはジュリナビ自身が指摘しているとおりです。それなのに,どうして増員反対論者が新人を雇わなければならないの?
 また,ジュリナビの論調はあたかも「新人弁護士のOJTなんて必要ない」と言わんばかりですが,仮にそうであればOJTを受けられない即独がいくら増えても特に問題はないはずであり,わざわざ即独の実態調査をしている意味が分かりません。

 まあ,ジュリナビはどうやら法科大学院協会と深い関連があるようなので,もともと中立・公正な記事なんて期待できないですし,このようなジュリナビの記事を読んで法科大学院に行こうと決意するアホな学生もあまりいないでしょうが。
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