平成20年以降の司法試験合格者数の「目安」について
- 2007/06/25
- 21:09
6月22日付け朝日新聞の記事。
http://www.asahi.com/job/news/TKY200706220370.html
引用記事によると、法務省司法試験委員会は、平成20年以降の司法試験合格者数の目安について、以下のとおり発表したそうです。
新試験 旧試験
平成20年 2100〜2500人程度 200人程度
平成21年 2500〜2900人程度 100人程度
平成22年 2900〜3000人程度 (前年よりさらに減らす)
引用記事によると、司法試験委員会は、どうやら「法科大学院の実績や受験者の動向」を検討した結果、結局政府の方針そのままという感じで上記の数字を決めているようであり、合格者の質や法曹需要の動向、司法修習の受け入れ態勢などはそもそも考慮していない節があります。
今年終了する司法修習(旧60期約1500人、新60期約1000人)でさえ、弁護修習の受け入れ先確保に弁護士会の司法修習委員会がかなり苦労していたり、裁判所でも特に刑事裁判について修習生の傍聴席を確保できず、やむなく裁判員用法廷を使ってしまっているところもあるくらいですから、修習生が年間3000人にもなれば、修習生が満足な修習を受けられなくなる可能性があります。
ましてや、修習生が二回試験に合格できるかどうか、就職先を見つけられるかどうか、弁護士資格を得たものの就職先を見つけられなかった人が非弁提携行為に走ったりしないかどうかなどといった問題については、そもそも司法試験委員会の管轄に属する問題ではないと考えているとしか思えません。
もっとも、司法試験法12条1項によると、司法試験委員会の所管事項は
1 司法試験を行うこと
2 法務大臣の諮問に応じ,司法試験の実施に関する重要事項について調査審議すること
3 司法試験の実施に関する重要事項に関し,法務大臣に意見を述べること
4 その他法律によりその権限に属させられた事項を処理すること
とされており、司法試験委員会には法曹界全体の制度的バランスを考えて合格者の人数を決定ないし調節するといった権限はそもそも与えられていませんから、合格後の問題など考慮しないという考え方は法的には正しいのかもしれません。ただ、それならばそれで、そもそも合格者数の「目安」をこのように事前に決定する権限が司法試験委員会にあるのか、という問題が別に生じてきます。
なお、平成23年からは旧試験が廃止され(ただし、平成23年には前年度論文試験合格者に対する口述試験のみ行われます)、それに代わり「予備試験」が実施されることが既に決まっています。
予備試験は、合格すれば法科大学院を卒業しなくても新司法試験の受験資格を得ることができ、また誰でも受験することができますから、一見極めて狭き門となる平成21年や22年の旧司法試験を受けるよりは、予備試験実施を待ったほうが良いのではないかと思われますが、実際はそうとも限りません。
合格者数が絞られることにより、法曹志望者の多くが法科大学院や予備試験に流れてしまい、旧試験の人気が落ちることで、旧試験が法曹資格の「穴場」になる可能性があります。
その兆候は平成18年の旧司法試験にも既に見られており、同年の旧試験は最終合格者数が549名と、前年より大幅に減少したにもかかわらず、論文試験の合格基準点は前年より少ししか上がっていません。
今年(平成19年)の旧試験合格者数は約300人、来年以降は上記のとおりとなることが予定されています。今年の旧試験択一試験の受験者数は23,298人ですから、全体の合格率自体は1%近くにまで下がることになります(なお、今年の新司法試験の合格率は40%前後になる見込みです)が、これは大学法学部生の記念受験組が残っているだけのことで、合格者のレベル自体が昨年より急激に上がるということは、昨年の結果を見るとあまり無いような気がします。
その一方、日弁連が旧試験を未だに「現行試験」と呼んでいることからも分かるように、旧試験は現役の法曹関係者の間にはなお強い愛着と信頼感があり、昨年の旧試験合格者である旧61期の司法修習生については、公設事務所等以外の弁護士に対し、日弁連からここ数年出されていなかった就職勧誘行為の自粛要請が出されているほどですので、旧試験に合格すれば、法科大学院卒業生と異なり法律事務所への就職活動にそれほど苦労することはないでしょう(それもある意味では歪んでいるような気もしますが)。
話は変わりますが、最近の司法試験委員会関係の資料を読んでいると、「何だそれは!」と言いたくなるような発言が目立ちます。
まず、法科大学院はその卒業レベルが「旧司法試験合格者が前期修習を終了した程度」であることを前提としているところ、平成19年2月7日の司法試験委員会で行われた、法科大学院の第三者評価を行った日弁連法務研究財団からのヒアリングによると、そもそも前期修習終了程度というのは(司法研修所に行っていないため)どのようなレベルかよく分からない法科大学院の教員が多いそうです。
また、4月19日の司法試験委員会で行われた関係五者(法科大学院、司法研修所、法務省、文部科学省及び日弁連)のヒアリングでは、次のような発言が出ています。
・新60期修習生については、概ねまじめで熱心であったが、ビジネスロイヤー志向が強く、刑事系科目を軽視している修習生が多いのではないか、という意見もあった。
・新60期修習生は、口頭でのやり取りには慣れており、教官から質問されても沈黙してしまうことは少なく、自分なりの考えをそれなりに述べるが、発言内容が的を得ているかというと、必ずしもそうではないという意見が多かった。
・新60期修習生の文章能力(旧試験組との比較)や予備校との関係については、教官の間でも意見が分かれているが、全般的に実体法の理解不足が目立つというのが、非常に多くの教官に共通の意見である。民法や刑法といった基本のところを知らないまま、先端の部分について中途半端な知識を持っているという印象を受ける。ただ、従来の修習生とどちらが優秀かという問題については、一概にはいえないが、新司法試験を経た修習生の方が、実力が真ん中の辺りに固まっているという意見があった。
・全般的に見ると、優秀な修習生がいることに変わりはないが、能力不足の修習生も増えているというのが共通の印象ではないかと思う。
・ここ数年前からの問題であり今年に限った話ではないが、修習より就職活動を熱心にやる修習生が多く、特に今年は非常に就職が厳しいと言われていることもあり、欠席などが目立つとか、修習に身が入っていないのではないかと思われる修習生が例年より格段に多いとの指摘を実務庁会から受けている。
・修習生は、年々まじめになってきているが、それが必ずしも成果に結びついていない。
・立場を変えて思考することがうまくできない修習生が多く、たとえば弁護士修習をしているときは、当事者の立場に立って物を考えることができなければならないが、そういうことがあまり上手にできない修習生が増えていると聞いている。
・小さい各単位会(の弁護士会)は、かなり苦労して修習生の受け入れを行っている。例えば函館には、現行(旧60期のことと思われる)12人の修習生が配置されているが、20期以降で、かつ経験5年以上の弁護士は函館には22人しかいない。また、ある単位会では、支部の弁護士も動員して実務修習を行っているが、修習生は本庁所在地付近に居を構えており、毎日本庁付近から支部に毎日移動していたのでは移動の時間がもったいないので、修習の実をあげるため、支部付近のホテルに泊まってもらって弁護修習を行い、その費用は全て単位会が負担しているというところもある。
・日弁連でアンケート調査を行ったところ、就職希望者数より求人数の方が少なく、相当数の修習生が就職できないのではないかというアンケート結果になり、そのまま放っておくことはできないため、現在就職先の掘り起こしを行っている。また、企業や自治体における弁護士求人の数もアンケートで調査してみたが、思ったほどの数はないという結果になっている。
・就職条件についても、昔は月40万の16ヶ月で年640万程度が平均的だという意識があったが、最近は300万、400万だったら雇うといった結果も出ており、かなり水準が下がってきているのが実態だと思われる。
・社会人の法科大学院入学者は、年々減少しているというイメージがある。一般的に専門職大学院では、制度の最初の年に量的にも質的にも優秀な人たちが集まり、2年目、3年目以降は落ち着いてくるという傾向があるが、最近の減り方は、それだけでは説明がつかないという部分があるように感じている。
発言内容の中には、既に噂で聞いていたような話や予想していたような話もありますが、ヒアリングでこんな実態を聞かされながら、平然と予定通りの合格者数増を打ち出しているのですから、司法試験委員会の人も度胸がありますね。
今のところ、新60期に特有の傾向として言われているのは、ビジネスロイヤー志向が強く刑事系科目を軽視する修習生が多いというだけで、全般的な質が従来の修習生に劣るとまで言われているわけではありませんが、仮に旧60期と新60期の修習生に質的な差異がそれほどないと仮定しても、法科大学院の入学志望者数が年々減少している以上、新61期以降の修習生の質は確実に低下していくでしょう。将来的に、法科大学院サイドで教育内容が次第に改善されていくとしても、目だった効果が表れるまでには、おそらく何十年もかかることを覚悟しなければなりません。
その中で合格枠だけを広げていけば、裁判官、検察官、弁護士といった法曹の学力レベルがもはや救い難いところまで低下してしまうおそれもあり、現行法の制度の枠組みを維持していたら、日本の21世紀は「司法の時代」どころか、「司法制度崩壊の時代」になってしまうかもしれません。
http://www.asahi.com/job/news/TKY200706220370.html
引用記事によると、法務省司法試験委員会は、平成20年以降の司法試験合格者数の目安について、以下のとおり発表したそうです。
新試験 旧試験
平成20年 2100〜2500人程度 200人程度
平成21年 2500〜2900人程度 100人程度
平成22年 2900〜3000人程度 (前年よりさらに減らす)
引用記事によると、司法試験委員会は、どうやら「法科大学院の実績や受験者の動向」を検討した結果、結局政府の方針そのままという感じで上記の数字を決めているようであり、合格者の質や法曹需要の動向、司法修習の受け入れ態勢などはそもそも考慮していない節があります。
今年終了する司法修習(旧60期約1500人、新60期約1000人)でさえ、弁護修習の受け入れ先確保に弁護士会の司法修習委員会がかなり苦労していたり、裁判所でも特に刑事裁判について修習生の傍聴席を確保できず、やむなく裁判員用法廷を使ってしまっているところもあるくらいですから、修習生が年間3000人にもなれば、修習生が満足な修習を受けられなくなる可能性があります。
ましてや、修習生が二回試験に合格できるかどうか、就職先を見つけられるかどうか、弁護士資格を得たものの就職先を見つけられなかった人が非弁提携行為に走ったりしないかどうかなどといった問題については、そもそも司法試験委員会の管轄に属する問題ではないと考えているとしか思えません。
もっとも、司法試験法12条1項によると、司法試験委員会の所管事項は
1 司法試験を行うこと
2 法務大臣の諮問に応じ,司法試験の実施に関する重要事項について調査審議すること
3 司法試験の実施に関する重要事項に関し,法務大臣に意見を述べること
4 その他法律によりその権限に属させられた事項を処理すること
とされており、司法試験委員会には法曹界全体の制度的バランスを考えて合格者の人数を決定ないし調節するといった権限はそもそも与えられていませんから、合格後の問題など考慮しないという考え方は法的には正しいのかもしれません。ただ、それならばそれで、そもそも合格者数の「目安」をこのように事前に決定する権限が司法試験委員会にあるのか、という問題が別に生じてきます。
なお、平成23年からは旧試験が廃止され(ただし、平成23年には前年度論文試験合格者に対する口述試験のみ行われます)、それに代わり「予備試験」が実施されることが既に決まっています。
予備試験は、合格すれば法科大学院を卒業しなくても新司法試験の受験資格を得ることができ、また誰でも受験することができますから、一見極めて狭き門となる平成21年や22年の旧司法試験を受けるよりは、予備試験実施を待ったほうが良いのではないかと思われますが、実際はそうとも限りません。
合格者数が絞られることにより、法曹志望者の多くが法科大学院や予備試験に流れてしまい、旧試験の人気が落ちることで、旧試験が法曹資格の「穴場」になる可能性があります。
その兆候は平成18年の旧司法試験にも既に見られており、同年の旧試験は最終合格者数が549名と、前年より大幅に減少したにもかかわらず、論文試験の合格基準点は前年より少ししか上がっていません。
今年(平成19年)の旧試験合格者数は約300人、来年以降は上記のとおりとなることが予定されています。今年の旧試験択一試験の受験者数は23,298人ですから、全体の合格率自体は1%近くにまで下がることになります(なお、今年の新司法試験の合格率は40%前後になる見込みです)が、これは大学法学部生の記念受験組が残っているだけのことで、合格者のレベル自体が昨年より急激に上がるということは、昨年の結果を見るとあまり無いような気がします。
その一方、日弁連が旧試験を未だに「現行試験」と呼んでいることからも分かるように、旧試験は現役の法曹関係者の間にはなお強い愛着と信頼感があり、昨年の旧試験合格者である旧61期の司法修習生については、公設事務所等以外の弁護士に対し、日弁連からここ数年出されていなかった就職勧誘行為の自粛要請が出されているほどですので、旧試験に合格すれば、法科大学院卒業生と異なり法律事務所への就職活動にそれほど苦労することはないでしょう(それもある意味では歪んでいるような気もしますが)。
話は変わりますが、最近の司法試験委員会関係の資料を読んでいると、「何だそれは!」と言いたくなるような発言が目立ちます。
まず、法科大学院はその卒業レベルが「旧司法試験合格者が前期修習を終了した程度」であることを前提としているところ、平成19年2月7日の司法試験委員会で行われた、法科大学院の第三者評価を行った日弁連法務研究財団からのヒアリングによると、そもそも前期修習終了程度というのは(司法研修所に行っていないため)どのようなレベルかよく分からない法科大学院の教員が多いそうです。
また、4月19日の司法試験委員会で行われた関係五者(法科大学院、司法研修所、法務省、文部科学省及び日弁連)のヒアリングでは、次のような発言が出ています。
・新60期修習生については、概ねまじめで熱心であったが、ビジネスロイヤー志向が強く、刑事系科目を軽視している修習生が多いのではないか、という意見もあった。
・新60期修習生は、口頭でのやり取りには慣れており、教官から質問されても沈黙してしまうことは少なく、自分なりの考えをそれなりに述べるが、発言内容が的を得ているかというと、必ずしもそうではないという意見が多かった。
・新60期修習生の文章能力(旧試験組との比較)や予備校との関係については、教官の間でも意見が分かれているが、全般的に実体法の理解不足が目立つというのが、非常に多くの教官に共通の意見である。民法や刑法といった基本のところを知らないまま、先端の部分について中途半端な知識を持っているという印象を受ける。ただ、従来の修習生とどちらが優秀かという問題については、一概にはいえないが、新司法試験を経た修習生の方が、実力が真ん中の辺りに固まっているという意見があった。
・全般的に見ると、優秀な修習生がいることに変わりはないが、能力不足の修習生も増えているというのが共通の印象ではないかと思う。
・ここ数年前からの問題であり今年に限った話ではないが、修習より就職活動を熱心にやる修習生が多く、特に今年は非常に就職が厳しいと言われていることもあり、欠席などが目立つとか、修習に身が入っていないのではないかと思われる修習生が例年より格段に多いとの指摘を実務庁会から受けている。
・修習生は、年々まじめになってきているが、それが必ずしも成果に結びついていない。
・立場を変えて思考することがうまくできない修習生が多く、たとえば弁護士修習をしているときは、当事者の立場に立って物を考えることができなければならないが、そういうことがあまり上手にできない修習生が増えていると聞いている。
・小さい各単位会(の弁護士会)は、かなり苦労して修習生の受け入れを行っている。例えば函館には、現行(旧60期のことと思われる)12人の修習生が配置されているが、20期以降で、かつ経験5年以上の弁護士は函館には22人しかいない。また、ある単位会では、支部の弁護士も動員して実務修習を行っているが、修習生は本庁所在地付近に居を構えており、毎日本庁付近から支部に毎日移動していたのでは移動の時間がもったいないので、修習の実をあげるため、支部付近のホテルに泊まってもらって弁護修習を行い、その費用は全て単位会が負担しているというところもある。
・日弁連でアンケート調査を行ったところ、就職希望者数より求人数の方が少なく、相当数の修習生が就職できないのではないかというアンケート結果になり、そのまま放っておくことはできないため、現在就職先の掘り起こしを行っている。また、企業や自治体における弁護士求人の数もアンケートで調査してみたが、思ったほどの数はないという結果になっている。
・就職条件についても、昔は月40万の16ヶ月で年640万程度が平均的だという意識があったが、最近は300万、400万だったら雇うといった結果も出ており、かなり水準が下がってきているのが実態だと思われる。
・社会人の法科大学院入学者は、年々減少しているというイメージがある。一般的に専門職大学院では、制度の最初の年に量的にも質的にも優秀な人たちが集まり、2年目、3年目以降は落ち着いてくるという傾向があるが、最近の減り方は、それだけでは説明がつかないという部分があるように感じている。
発言内容の中には、既に噂で聞いていたような話や予想していたような話もありますが、ヒアリングでこんな実態を聞かされながら、平然と予定通りの合格者数増を打ち出しているのですから、司法試験委員会の人も度胸がありますね。
今のところ、新60期に特有の傾向として言われているのは、ビジネスロイヤー志向が強く刑事系科目を軽視する修習生が多いというだけで、全般的な質が従来の修習生に劣るとまで言われているわけではありませんが、仮に旧60期と新60期の修習生に質的な差異がそれほどないと仮定しても、法科大学院の入学志望者数が年々減少している以上、新61期以降の修習生の質は確実に低下していくでしょう。将来的に、法科大学院サイドで教育内容が次第に改善されていくとしても、目だった効果が表れるまでには、おそらく何十年もかかることを覚悟しなければなりません。
その中で合格枠だけを広げていけば、裁判官、検察官、弁護士といった法曹の学力レベルがもはや救い難いところまで低下してしまうおそれもあり、現行法の制度の枠組みを維持していたら、日本の21世紀は「司法の時代」どころか、「司法制度崩壊の時代」になってしまうかもしれません。
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