総務省における法科大学院(法曹養成制度)の評価について(3)
- 2011/01/31
- 19:00
前回の記事の続き。この記事でようやく終わりです。
○ 合格基準、合格者の決定
<指摘40>新司法試験の試験委員の選考基準が不透明ではないかとの指摘があるが、どうか。
<指摘41> 採点基準や採点マニュアルなどはどうなっているのか、守秘義務に抵触しない範囲で検証する必要があるのではないか。また、合格者数を何人にするか、あるいは、何点以上を合格とするか、どのような基準に基づいて決定しているのか、明確な基準はないのではないか。
上記の各指摘については,当職も現状がよく分からないため,意見は差し控える。
<指摘42>
ヒアリングした方のコメントにもあったが、新司法試験の問題は、合格者を判定するための機能を適切に果たす内容になっているのだろうか。論理的思考力や事例解析能力等を見るための試験とすることを強調するあまり、受験生にとっては、どのように合否が判定されるのか、合否の予測が困難になっており、その結果、多様の人材が法曹になることを困難にしているのではないか。例えば、短答式試験は何点以上を合格とするとか、論文式試験は模範回答を示すなど、合格の目安を示すべき。
<意 見>
上記の指摘は,いずれも全くの的外れである。
短答式試験については,旧試験時代と異なり正解や採点基準も公表されており,また合格ライン(正確には,新司法試験の合否は択一式試験と論文式試験の総合評価で判断されるため,総合評価の対象となるライン)も毎年公表され,最近は公法系・民事系・刑事系の3科目について満点の40%以上かつ合計215点以上というのが相場となっているため,上記のような批判は当たらない。
論文式試験については,上記指摘の論者に限らず,最近の法科大学院関係者には「出題の趣旨だけではなく模範答案を出せ」という意見も目立つが,そもそも審議会意見書が法科大学院の必要性を説く根拠としていたのは,旧司法試験の答案について,受験予備校の教えた解答の論証パターンを丸暗記したと思われる答案が目立ち,真の意味で法的思考力を問う司法試験の在り方として問題があるという点にある。
もっとも,新司法試験実施後も受験予備校の重要性が低下したわけではなく,新試験の答案についても旧試験とは異なる形でパターン化が進んでいるとの指摘もあるが,そのような状況のもとで論文式試験問題の「模範解答」を示せば,受験生はひたすら模範解答の丸暗記に走り,論文式試験の目的である「自らの言葉で法律的な文章を書く能力」が身につかないおそれが高い(司法研修所の起案についても,従来から修習生により模範答案や参考答案を出して欲しいとの要望はあったが,これと同様の理由により模範答案等は一切出されていない)。
新司法試験について模範解答を出せと主張する者は,一体何のために法科大学院制度が導入されたのか,完全に忘れてしまっているのではないか。
<指摘43>
7割合格が前提であれば、5割ですら超えるものが数校しかない現状は、全法科大学院が要求水準を満たしていないのかということになってしまう。また、司法試験予備校の一流講師がついて教えても、今の2,000 番目の合格者のレベルを維持しつつ合格者を3,000 人にすることは難しいという。つまり、合格者を3,000人にするということは、合格水準をそのレベルまで下げるという了解が当然にあったのではないか。あるいは、今でも、合格レベルを保ったまま、法科大学院の質を高めれば3,000 人の合格者を出せると考えているのであれば、その根拠を示すべき。
<意 見>
上記の指摘は,現行制度に対する批判としては当を得ていると思われる。
法科大学院制度は,審議会意見書では「大幅な合格者数増をその質を維持しつつ図る」ことが困難であるという旧司法試験の「問題点を克服する」ために設けるということになっており,少なくとも審議会の委員達は,法科大学院の設置により合格者のレベルを維持しつつ,合格者を年間3,000人にすることが可能であったと考えていたことになる。
しかし,司法制度改革審議会は,それまで事実上受験生の指導を行っていた司法試験予備校を私怨により徹底的に排除し,これまで本格的に司法試験向けの受験指導を行った経験のない大学教授達の主導で進められた審議会であり,上記のような考え方が全くの机上の空論であったことは,今や誰の目にも明らかである。
審議会意見書が公表された当時,法曹三者や法科大学院関係者の間でも,合格者の増加により合格水準を下げて良いとの了解はなかったが,日本弁護士連合会は,審議会意見書の示した「法曹一元」という餌に飛びついて,結局審議会意見書の考え方を容認した。当時は,大学関係者も日弁連執行部の多くも気が狂っていたと表現するしかなく,このような構想の実現性に対する異論は,審議会意見書の「権威」を楯に全て黙殺された。
当職も,司法試験合格後,論文式試験の答案練習で答案の採点に携わるなどして後進の受験指導に関与したことがあるが,そのときの感覚から考えても,司法試験の最終合格は,単に予備校へ入学し人気講師の指導を受けるのみで簡単に達成できるものではなく,予備校の受験指導に素直に従い,決して楽ではない勉強を数年間も続けられる精神力があり,かつ相応の素質がある者がやっと成し遂げられるという性質のものであった。
当時は大手の司法試験予備校が4つほどあったが,そのいずれも最終合格者の占有率(司法試験最終合格者のうち何%が,その予備校の受験指導を受けていたか)を広告することはできても,各予備校の基礎講座を受講した者のうち何%が司法試験に合格したかを広告する予備校は全くなかった(おそらく,いずれもあまりに低過ぎるので,広告には到底使えなかったのであろう)。
ヒアリングの対象となった伊藤塾の塾長のみならず,おそらく司法試験予備校における人気講師陣の誰に聞いても,合格者のレベルを維持しつつ司法試験の合格者数を年間3,000人とすることは,「不可能」ないし「極めて困難」という回答が戻ってくると確信する。
○ 受験回数制限
<指摘44>受験回数を制限する明確な根拠がないまま、現行の5年間に3回までというルールが決められているのではないか。
<指摘45>受験回数制限はないほうが良いと思う。現行の5年間に3回の制限は、サプライサイドの発想で、受験者の気持ちを斟酌していない仕組みだと思う。
<意 見>
いずれも全くそのとおりである。
現行の5年間に3回までという受験回数制限は,審議会意見書の提言によるものであるが,その理由は「法科大学院制度及び新司法試験制度の趣旨から」とされているのみで,具体的根拠は明らかでない。おそらくは,受験滞留者の増加により新司法試験の合格率が低下することを懸念したものと思われるが,これは明らかにサプライサイドの発想であり,受験者の気持ちなど全く斟酌していないことは明らかである。
そして,新司法試験の合格率が既に20%台にまで低下し,今後は予備試験の施行に伴い予備試験合格者が参入してくるので,新司法試験の合格率はさらに低下することが予想されるところ,ここまで合格率の低い試験について,現行の5年間に3回までという受験回数制限を維持することはあまり合理性がないので,同制限は撤廃を検討すべきであると思われる。
○ 予備試験
<指摘46>
平成23年度から行われる予備試験については、規制改革推進のための3か年計画(再改定)(平成21 年3月閣議決定)において、「予備試験合格者数について、予備試験合格者に占める本試験合格者の割合と法科大学院修了者に占める本試験合格者の割合とを均衡させるとともに、予備試験合格者が絞られることで実質的に予備試験受験者が法科大学院を修了する者と比べて、本試験受験の機会において不利に扱われることのないようにする等の総合的考慮を行う」とされていることを踏まえ、適切な措置が講じられるべきである。
<意 見>
基本的にはそのとおりであるが,現行法における予備試験制度は,建前上は法科大学院修了者と同程度の能力を有するか否かの判定を行うものとされているものの,その試験内容は旧司法試験の第二次試験と同様に,択一式・論文式及び口述式の3段階に分けて行われるものとされており,法律系の試験科目も基本7科目,民事基礎実務及び刑事基礎実務と多く,実質的には司法試験そのものであり受験者の負担が重すぎるとの批判がある。
このような試験制度は,既に司法試験法で定められていることから,前期「法曹養成と法曹人口に関する緊急提言」では,現行法の予備試験は受験者に過剰な負担を課し,結果として法科大学院修了者の優位を確保するための仕組みになるおそれがあるとして,科目数等を簡素化・簡易化し,受験者の負担を軽減するべきであり,それに必要な法改正を本年中に行うものとされた。
もっとも,同提言が公表された年の衆議院総選挙で,当時の政府与党であった自由民主党は大敗して野党に転落し,これに代わって政権与党となった民主党は法曹養成制度について問題の所在を全くと言ってよいほど把握していなかったため,同提言に基づく法改正は現在のところ実現していないが,予備試験の在り方については,既得権益の維持にこだわる法科大学院関係者が予備試験の廃止や実施延期を主張するなど,利害関係者間における議論が錯綜している状況にあるため,不当な法科大学院優遇とならないよう,第三者機関である貴省の行政評価においても一定の検討を行い,法改正等の要否について一定の見解を示すのが適当であると考える。
【その他】
<指摘47>
司法試験の受験資格喪失者などの不合格者に対するケアはどの程度行われているのか。現在、法務省及び文部科学省は、その実態を把握していないが、速やかに把握し、何らかの抜本的対策を講ずべき。上記の合格基準、合格者決定の項にある「合格の目安を示すべき」の事項と併せ、今のままでは、合格の目途もつかずにいたずらに受験勉強に走り、不合格だと放置されるという不安を抱えたままの制度である。
<意 見>
当職の知る限り,司法試験の受験資格喪失者等に対するケアは,国として全く行っておらず,そのような発想自体がない。これは司法試験に限った問題ではなく,最近制度改正が行われた公認会計士試験においても,難関の論文式試験に合格したにもかかわらず,監査法人等への就職口がなく,公認会計士となるために必要な実務経験を積む機会がないために,結局何らの資格も肩書きも得ることの出来ない「待機合格者」の発生が問題視されているものの,これに対する金融庁の対策は「公認会計士となるためには試験合格だけでなく実務経験が必要であり,年齢を重ねた者は試験に合格しても就職できないおそれがあることを周知させる」という非情極まりないものであった。
それに比べれば,法科大学院を修了したものの司法試験に合格できず受験資格を失うような者は,自己の責任でそのような事態に至ったのであるから仕方ないという理屈になるのであろうが,旧試験時代であればともかく,法科大学院制度によって,法曹志望者に対し多額の学資と時間を投入させ退路を断つような仕組みを維持するのであれば,法科大学院を修了しながら試験に合格できず生活に行き詰まっているような者に対する一定のケアは必要であると思われる。
<指摘48>
次のような、志願者への説明不足と志願者の認識不足を解消する努力・工夫が必要ではないか。
- 学生諸君の「根拠なき楽観」=自分は違う、真面目にやれば通る、三振したときのことは考えていなかった。
- 通れば、専業弁護士として喰っていけると思い込んでいる。
- 三振した場合の「人生ロス」についての認識不足=官庁を含めて、新卒22 歳から働いている者と30 歳近くになって入社(省)するものとの「生涯格差」の認識の欠如。
- 新卒時にあった、多彩な人生選択が一般的に失われたという事実の不認識。
<意 見>
一般論としては正論であると思われるが,法科大学院の実情は上記と全くの逆で,司法試験の合格率を7〜8割にするという当初の構想が破綻していることが明らかとなった後も,多くの法科大学院では少しでも多くの学生を集めるため,法科大学院について「卒業すれば7〜8割は弁護士となれる制度である」などと,消費者契約法違反ではないかと思われる説明を繰り返していたのが実情のようである。
さすがにそのような説明はできなくなった今日においても,一部の法科大学院は大学法学部の卒業者等に対し執拗に入学を勧誘していると聞いており,法科大学院の不当勧誘行為はもはや一種の消費者問題にまで発展しているといえる。
法科大学院関係者に対し,入学志望者へ上記指摘のような説明を義務づけた場合,おそらく下位の法科大学院の大半は潰れると予想されるが,そもそも消費者契約法に抵触するような不当勧誘行為を続けなければ存続できないような制度を国として維持すべきであるのか,真剣に議論されなければならないであろう。
(以 上)
○ 合格基準、合格者の決定
<指摘40>新司法試験の試験委員の選考基準が不透明ではないかとの指摘があるが、どうか。
<指摘41> 採点基準や採点マニュアルなどはどうなっているのか、守秘義務に抵触しない範囲で検証する必要があるのではないか。また、合格者数を何人にするか、あるいは、何点以上を合格とするか、どのような基準に基づいて決定しているのか、明確な基準はないのではないか。
上記の各指摘については,当職も現状がよく分からないため,意見は差し控える。
<指摘42>
ヒアリングした方のコメントにもあったが、新司法試験の問題は、合格者を判定するための機能を適切に果たす内容になっているのだろうか。論理的思考力や事例解析能力等を見るための試験とすることを強調するあまり、受験生にとっては、どのように合否が判定されるのか、合否の予測が困難になっており、その結果、多様の人材が法曹になることを困難にしているのではないか。例えば、短答式試験は何点以上を合格とするとか、論文式試験は模範回答を示すなど、合格の目安を示すべき。
<意 見>
上記の指摘は,いずれも全くの的外れである。
短答式試験については,旧試験時代と異なり正解や採点基準も公表されており,また合格ライン(正確には,新司法試験の合否は択一式試験と論文式試験の総合評価で判断されるため,総合評価の対象となるライン)も毎年公表され,最近は公法系・民事系・刑事系の3科目について満点の40%以上かつ合計215点以上というのが相場となっているため,上記のような批判は当たらない。
論文式試験については,上記指摘の論者に限らず,最近の法科大学院関係者には「出題の趣旨だけではなく模範答案を出せ」という意見も目立つが,そもそも審議会意見書が法科大学院の必要性を説く根拠としていたのは,旧司法試験の答案について,受験予備校の教えた解答の論証パターンを丸暗記したと思われる答案が目立ち,真の意味で法的思考力を問う司法試験の在り方として問題があるという点にある。
もっとも,新司法試験実施後も受験予備校の重要性が低下したわけではなく,新試験の答案についても旧試験とは異なる形でパターン化が進んでいるとの指摘もあるが,そのような状況のもとで論文式試験問題の「模範解答」を示せば,受験生はひたすら模範解答の丸暗記に走り,論文式試験の目的である「自らの言葉で法律的な文章を書く能力」が身につかないおそれが高い(司法研修所の起案についても,従来から修習生により模範答案や参考答案を出して欲しいとの要望はあったが,これと同様の理由により模範答案等は一切出されていない)。
新司法試験について模範解答を出せと主張する者は,一体何のために法科大学院制度が導入されたのか,完全に忘れてしまっているのではないか。
<指摘43>
7割合格が前提であれば、5割ですら超えるものが数校しかない現状は、全法科大学院が要求水準を満たしていないのかということになってしまう。また、司法試験予備校の一流講師がついて教えても、今の2,000 番目の合格者のレベルを維持しつつ合格者を3,000 人にすることは難しいという。つまり、合格者を3,000人にするということは、合格水準をそのレベルまで下げるという了解が当然にあったのではないか。あるいは、今でも、合格レベルを保ったまま、法科大学院の質を高めれば3,000 人の合格者を出せると考えているのであれば、その根拠を示すべき。
<意 見>
上記の指摘は,現行制度に対する批判としては当を得ていると思われる。
法科大学院制度は,審議会意見書では「大幅な合格者数増をその質を維持しつつ図る」ことが困難であるという旧司法試験の「問題点を克服する」ために設けるということになっており,少なくとも審議会の委員達は,法科大学院の設置により合格者のレベルを維持しつつ,合格者を年間3,000人にすることが可能であったと考えていたことになる。
しかし,司法制度改革審議会は,それまで事実上受験生の指導を行っていた司法試験予備校を私怨により徹底的に排除し,これまで本格的に司法試験向けの受験指導を行った経験のない大学教授達の主導で進められた審議会であり,上記のような考え方が全くの机上の空論であったことは,今や誰の目にも明らかである。
審議会意見書が公表された当時,法曹三者や法科大学院関係者の間でも,合格者の増加により合格水準を下げて良いとの了解はなかったが,日本弁護士連合会は,審議会意見書の示した「法曹一元」という餌に飛びついて,結局審議会意見書の考え方を容認した。当時は,大学関係者も日弁連執行部の多くも気が狂っていたと表現するしかなく,このような構想の実現性に対する異論は,審議会意見書の「権威」を楯に全て黙殺された。
当職も,司法試験合格後,論文式試験の答案練習で答案の採点に携わるなどして後進の受験指導に関与したことがあるが,そのときの感覚から考えても,司法試験の最終合格は,単に予備校へ入学し人気講師の指導を受けるのみで簡単に達成できるものではなく,予備校の受験指導に素直に従い,決して楽ではない勉強を数年間も続けられる精神力があり,かつ相応の素質がある者がやっと成し遂げられるという性質のものであった。
当時は大手の司法試験予備校が4つほどあったが,そのいずれも最終合格者の占有率(司法試験最終合格者のうち何%が,その予備校の受験指導を受けていたか)を広告することはできても,各予備校の基礎講座を受講した者のうち何%が司法試験に合格したかを広告する予備校は全くなかった(おそらく,いずれもあまりに低過ぎるので,広告には到底使えなかったのであろう)。
ヒアリングの対象となった伊藤塾の塾長のみならず,おそらく司法試験予備校における人気講師陣の誰に聞いても,合格者のレベルを維持しつつ司法試験の合格者数を年間3,000人とすることは,「不可能」ないし「極めて困難」という回答が戻ってくると確信する。
○ 受験回数制限
<指摘44>受験回数を制限する明確な根拠がないまま、現行の5年間に3回までというルールが決められているのではないか。
<指摘45>受験回数制限はないほうが良いと思う。現行の5年間に3回の制限は、サプライサイドの発想で、受験者の気持ちを斟酌していない仕組みだと思う。
<意 見>
いずれも全くそのとおりである。
現行の5年間に3回までという受験回数制限は,審議会意見書の提言によるものであるが,その理由は「法科大学院制度及び新司法試験制度の趣旨から」とされているのみで,具体的根拠は明らかでない。おそらくは,受験滞留者の増加により新司法試験の合格率が低下することを懸念したものと思われるが,これは明らかにサプライサイドの発想であり,受験者の気持ちなど全く斟酌していないことは明らかである。
そして,新司法試験の合格率が既に20%台にまで低下し,今後は予備試験の施行に伴い予備試験合格者が参入してくるので,新司法試験の合格率はさらに低下することが予想されるところ,ここまで合格率の低い試験について,現行の5年間に3回までという受験回数制限を維持することはあまり合理性がないので,同制限は撤廃を検討すべきであると思われる。
○ 予備試験
<指摘46>
平成23年度から行われる予備試験については、規制改革推進のための3か年計画(再改定)(平成21 年3月閣議決定)において、「予備試験合格者数について、予備試験合格者に占める本試験合格者の割合と法科大学院修了者に占める本試験合格者の割合とを均衡させるとともに、予備試験合格者が絞られることで実質的に予備試験受験者が法科大学院を修了する者と比べて、本試験受験の機会において不利に扱われることのないようにする等の総合的考慮を行う」とされていることを踏まえ、適切な措置が講じられるべきである。
<意 見>
基本的にはそのとおりであるが,現行法における予備試験制度は,建前上は法科大学院修了者と同程度の能力を有するか否かの判定を行うものとされているものの,その試験内容は旧司法試験の第二次試験と同様に,択一式・論文式及び口述式の3段階に分けて行われるものとされており,法律系の試験科目も基本7科目,民事基礎実務及び刑事基礎実務と多く,実質的には司法試験そのものであり受験者の負担が重すぎるとの批判がある。
このような試験制度は,既に司法試験法で定められていることから,前期「法曹養成と法曹人口に関する緊急提言」では,現行法の予備試験は受験者に過剰な負担を課し,結果として法科大学院修了者の優位を確保するための仕組みになるおそれがあるとして,科目数等を簡素化・簡易化し,受験者の負担を軽減するべきであり,それに必要な法改正を本年中に行うものとされた。
もっとも,同提言が公表された年の衆議院総選挙で,当時の政府与党であった自由民主党は大敗して野党に転落し,これに代わって政権与党となった民主党は法曹養成制度について問題の所在を全くと言ってよいほど把握していなかったため,同提言に基づく法改正は現在のところ実現していないが,予備試験の在り方については,既得権益の維持にこだわる法科大学院関係者が予備試験の廃止や実施延期を主張するなど,利害関係者間における議論が錯綜している状況にあるため,不当な法科大学院優遇とならないよう,第三者機関である貴省の行政評価においても一定の検討を行い,法改正等の要否について一定の見解を示すのが適当であると考える。
【その他】
<指摘47>
司法試験の受験資格喪失者などの不合格者に対するケアはどの程度行われているのか。現在、法務省及び文部科学省は、その実態を把握していないが、速やかに把握し、何らかの抜本的対策を講ずべき。上記の合格基準、合格者決定の項にある「合格の目安を示すべき」の事項と併せ、今のままでは、合格の目途もつかずにいたずらに受験勉強に走り、不合格だと放置されるという不安を抱えたままの制度である。
<意 見>
当職の知る限り,司法試験の受験資格喪失者等に対するケアは,国として全く行っておらず,そのような発想自体がない。これは司法試験に限った問題ではなく,最近制度改正が行われた公認会計士試験においても,難関の論文式試験に合格したにもかかわらず,監査法人等への就職口がなく,公認会計士となるために必要な実務経験を積む機会がないために,結局何らの資格も肩書きも得ることの出来ない「待機合格者」の発生が問題視されているものの,これに対する金融庁の対策は「公認会計士となるためには試験合格だけでなく実務経験が必要であり,年齢を重ねた者は試験に合格しても就職できないおそれがあることを周知させる」という非情極まりないものであった。
それに比べれば,法科大学院を修了したものの司法試験に合格できず受験資格を失うような者は,自己の責任でそのような事態に至ったのであるから仕方ないという理屈になるのであろうが,旧試験時代であればともかく,法科大学院制度によって,法曹志望者に対し多額の学資と時間を投入させ退路を断つような仕組みを維持するのであれば,法科大学院を修了しながら試験に合格できず生活に行き詰まっているような者に対する一定のケアは必要であると思われる。
<指摘48>
次のような、志願者への説明不足と志願者の認識不足を解消する努力・工夫が必要ではないか。
- 学生諸君の「根拠なき楽観」=自分は違う、真面目にやれば通る、三振したときのことは考えていなかった。
- 通れば、専業弁護士として喰っていけると思い込んでいる。
- 三振した場合の「人生ロス」についての認識不足=官庁を含めて、新卒22 歳から働いている者と30 歳近くになって入社(省)するものとの「生涯格差」の認識の欠如。
- 新卒時にあった、多彩な人生選択が一般的に失われたという事実の不認識。
<意 見>
一般論としては正論であると思われるが,法科大学院の実情は上記と全くの逆で,司法試験の合格率を7〜8割にするという当初の構想が破綻していることが明らかとなった後も,多くの法科大学院では少しでも多くの学生を集めるため,法科大学院について「卒業すれば7〜8割は弁護士となれる制度である」などと,消費者契約法違反ではないかと思われる説明を繰り返していたのが実情のようである。
さすがにそのような説明はできなくなった今日においても,一部の法科大学院は大学法学部の卒業者等に対し執拗に入学を勧誘していると聞いており,法科大学院の不当勧誘行為はもはや一種の消費者問題にまで発展しているといえる。
法科大学院関係者に対し,入学志望者へ上記指摘のような説明を義務づけた場合,おそらく下位の法科大学院の大半は潰れると予想されるが,そもそも消費者契約法に抵触するような不当勧誘行為を続けなければ存続できないような制度を国として維持すべきであるのか,真剣に議論されなければならないであろう。
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