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法科大学院教授が唱える「ロー廃止論」? 適性試験は悪徳商法?

 今年の適性試験について,実施結果が公表されました。
http://www.jlf.or.jp/jlsat/pdf/20120709_kekka.pdf
 この資料によると,第1回の受験者が4,753人,第2回の受験者が5,391人。
 適性試験は,未修者・既修者の別を問わず,法科大学院を受験しようとする者は必ず受験しなければならない試験ですから,この試験の受験者数の推移を見れば,翌年の法科大学院に何人くらい学生が入学するか,おおよその目安を付けることが出来ます。
 なお,法科大学院の入試にあたっては,2回行われる試験のうちどちらか良い方の成績を提出すればよいことになっているので,大半の受験生が2回とも受験します。今年は,4,177人が両方を受験しているため,実受験者総数は5,967人,うち法科大学院への入学資格を有する受験者は5,801人。
 ちなみに,昨年の適性試験受験者数は7,249人で,そのうち今年から法科大学院に入学した人は3,150人です。この数字から昨年の「適性試験受験者入学率」を算出して今年の受験者数に当てはめ,来年の入学者数を推定計算してみたところ,約2,592人という数字が出ました。順当に行けば,来年の法科大学院入学者数は2,600人前後にまで落ちる見込みになります。

 前置きが長くなりました。
 数日前から予告していた,米倉明教授の「法科大学院全廃も一つの道かも」の紹介ですが,一回の記事で全てを取り上げるのは難しいので,何回かに分けてお送りすることにします。ちょうど適性試験の話が出ましたので,本日は第1回の「適性試験編」をお送りしましょう。

○ 適性試験の問題を解いてみよう
 適性試験に関する米倉教授のご見解を紹介する前に,適性試験の問題がどのようなものかについて,ちょっと触れておきたいと思います。例として,2011年度の適性試験・第1部の問題3を引用します。
「イタリア料理の教室を開こうと思っている。つぎの?〜?の条件をあげて参加者を募集したところ,A〜Eの応募者があった。1〜5のうち,参加できる応募者をすべてあげたものを1つ選びなさい。ただし,夫婦で参加する場合は,女性が?〜?の条件のうち3つを満たせばよいものとする。
 ? 35歳以下の専業主婦
 ? 10時から15時までの間に参加可能な女性
 ? 食物アレルギーのない人
 ? 料理経験が1年以下の人
  A 33歳の専業主婦。16時から参加できる。食物アレルギーなし。料理経験1年。
  B 35歳の会社人女性。10時から参加できる。食物アレルギーなし。料理経験1年。
  C 34歳の専業主婦。11時から参加できる。食物アレルギーあり。料理経験2年。
  D 52歳の男性。Bさんと夫婦で参加の予定。食物アレルギーあり。料理経験2年。
  E 18歳の専業主婦。12時から参加できる。食物アレルギーなし。料理経験1年。
1.AC 2.BC 3.BDE 4.CE 5.Eのみ」

 正解は3ということですが,以下,この問題の解き方について説明します(解き方は一例であり,他にも効率的な解き方はあるかもしれません)。
 まず,A〜Eの応募者について,?〜?の条件を満たすかどうか確認してみましょう。
A→「16時から参加できる」となっているので,?の条件を満たさない。
B→「会社人女性」なので,?の条件を満たさない。
C→食物アレルギーなので?の条件を満たさず,料理経験2年なので?の条件も満たさない。
D→男性なので問題外。?〜?の条件を1つも満たしていない。
E→全ての条件を満たしている。
 条件を全て満たしている応募者はEだけなので,ここで「よし,正解は5だ!」と判断してしまうと間違えます。この問題は引っかけ問題で,「ただし,夫婦で参加する場合は,女性が?〜?の条件のうち3つを満たせばよい」という部分についても判断する必要があるのです。
 そして,問題文を読む限り,夫婦で参加する場合,男性側の条件は特に問われていないようなので,条件を1つも満たさないDさんについても,一緒に参加するBさんが条件のうち3つを満たしていれば,Bさんとともに参加資格があることになります。
 そして,Bさんを改めて確認すると,会社員女性であるため?の条件を満たしていませんが,他の3つの条件は満たしていますので,夫婦での参加資格はあります。したがって,参加資格があるのはB,D,Eの3人であり,正解は3となるのです。
 「こんな参加条件はおよそ合理性がないのではないか」といったことを考えてはいけません。試験時間40分でこんな感じの問題が24問も出題されるので,パズル感覚で手早く解いていく必要があります。

○ こんな試験で「適性」を判定できるのか?
 このような試験では,事務処理能力はある程度判定できるかも知れませんが,法律の知識などは全く問われませんし,法律学はこのような「正解は一つだけ,社会常識の有無は問わない」という思考様式とは正反対のものですので,このような試験で高得点を取れたからと言って,法曹界で活躍できるとはとても思えません。
 米倉教授は,学生は法科大学院に入る前の段階から既に法科大学院を嫌っていると指摘された上で,「入学のための適性試験の受験強制はその最たるものである。この試験で果して「適性」が判定できるのだろうか。確実な根拠づけをもって「イエス」ということができるとは,寡聞にして私は知らない」と述べられています。
 なお,文部科学省では,適性試験の成績が下位15%だった人(年2回受験できるので,実際には2回とも下位15%の成績しか取れなかった人)については,全体と比べて入学後の成績及び司法試験の成績が悪いというデータを公表しており,このデータを根拠に適性試験は有用性が証明されていると主張した上で,適性試験の成績が下位15%未満の人は法科大学院に入学させないよう執拗な行政指導を行っています。
 たしかに,そのような人は事務処理能力や要領に問題があるので入学後も苦戦するだろうというのは分かるのですが,それだけで適性試験が入学者選抜の方法として有用であるとは言えません。文部科学省も,それ以外の相関関係を示すデータは公表していません。
 適性試験は,アメリカのロースクール入学試験で行われている「LSAT」という試験を模倣したものですが,米倉教授に限らず,法科大学院の適性試験については批判的な意見が強く,法科大学院関係者が現在の適性試験を積極的に支持しているという話はあまり聞いたことがありません。

○ 適性試験は一種の悪徳商法?
 適性試験は,2010年までは日弁連法務研究財団が行うものと,大学入試センターが行うものの2種類があり,法科大学院の受験時にはどちらの成績を提出してもよいという取り扱いになっていましたが,実際には両方とも受けることを推奨しているようなものです。この点についても米倉教授は,「適性試験を2つも受けることが事実上強制されていたことも分かりにくい話である。2つも受けないと適性判定が危ういのであろうか(情けない適性試験だ)。それとも,ほかに理由があったのだろうか。受験生という弱い立場につけ入った一種の悪徳商法ではなかったのか」と述べられています。
 2011年からは,適性試験は日弁連法務研究財団が行うものに一本化されましたが,前述のとおり試験は年2回実施されており,1回あたり15,750円の受験手数料がかかるので,このような問題が解決されたとはいえません。
 なお,適性試験は,第1部から第4部までに分かれており,第1部(論理的思考力),第2部(分析的判断力)および第3部(長文読解力)の成績は300点満点でスコア化されますが,第4部(表現力)は論述試験であり,受験者に対し解答は義務づけられていますが,入試にあたり第4部の採用・採点は各法科大学院の判断に委ねられています。第4部を採用する法科大学院に対しては,答案の写しをそのまま提出する取り扱いになっています。
 表現力については,各法科大学院の入試で小論文試験を課するのが一般的なので,適性試験の第4部を採用している法科大学院は少ないですが,最近は一部の下位ローについて,大学独自の小論文試験を受験するか,それとも第4部を提出するかの選択制を導入しているところがあります(黒猫の知る限りでは,駒澤大学,甲南大学でこのような入試が行われています)。
 後者を選択する場合には,実質的に書類審査だけで未修者の合否が決まるので,受験者にとっては併願の手間が省けるということらしいですが,そこまでしないと学生が集まらない時代になっているんですね。恐ろしい・・・。

○ 推薦状の添付も無駄?
 入学前の段階における問題として,米倉教授は推薦状の添附も槍玉に挙げられています。法科大学院の多くでは,出身大学からの推薦状添附を求めるか,推薦状を任意提出させているところが多いようですが,米倉教授は推薦状の実態について以下のように述べられています。
これを書く人は大ていの場合は大学教員なのだが,大昔はともかく,今となっては,学生の人柄・能力についてよく知っている大学教員は極めてレアであろう。ほとんどの場合は,大学教員は学生のことをほとんど知らないで作文しているだけなのである。こんな推薦状は法科大学院にとって何の役に立つのだろうか,教えてもらいたい。外国留学のさいに添附する推薦状にしても,日本の大学教員の書くそれは信用度が甚だ低いということを,私は何度も聞いたことがある。
 何でもアメリカの猿まねをしようとするから,無駄なものが次から次へと出来ていくんでしょうね。
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黒猫

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