『実務家教員に厳しく,研究者教員に甘い』認証評価
- 2013/04/02
- 12:42
文科省関連のサイトを巡っていたところ,2012年度分の法科大学院認証評価に関する資料が出揃っていました。
<関連リンク>
1.日弁連法務研究財団
2012年度上期法科大学院認証評価の実施結果について
(対象校:久留米大学法科大学院,立教大学法科大学院,國學院大學法科大学院)
2012年度下期法科大学院認証評価の実施結果について
(対象校:大東文化大学法科大学院,福岡大学法科大学院,立命館大学法科大学院,西南学院大学法科大学院,獨協大学法科大学院,創価大学法科大学院)
2.大学評価・学位授与機構
平成24年度に機構が実施した法科大学院認証評価評価結果について(平成25年3月)
(対象校:北海道大学法科大学院,一橋大学法科大学院,新潟大学法科大学院,金沢大学法科大学院,香川大学法科大学院,熊本大学法科大学院,上智大学法科大学院,専修大学法科大学院,愛知大学法科大学院)
3.大学基準協会
2012(平成24)年度「法科大学院認証評価」の結果について
(対象校:慶応義塾大学法科大学院,法政大学法科大学院)
この法科大学院に対する認証評価の資料は,ほとんどが無味乾燥なものばかりですが,時々面白いことも書かれているので定期的にチェックしているのですが,今回は面白いというよりイラッとするお話です。
上記対象校のうち,不適合の評価を受けたのは久留米大学法科大学院だけで,他の法科大学院は適合評価とされているのですが,その中でも問題があるのは法政大学法科大学院です。認証評価報告書の3ページには,以下のような記述があります。
「第2に、教員組織に関して、貴法科大学院より提出された資料等によれば、民事訴訟法分野を担当する専任教員(研究者)については、最近5年間の当該分野に関する研究業績が存在しておらず、かつ、過去10年に遡っても当該分野に関する研究業績が存在していないことから、当該分野に関する高度な指導能力を有しているとは認められない。もっとも、当該専任教員が上記各授業科目を担当することになったのは、2011(平成23)年度途中に民事訴訟法分野を専門とする他の専任教員が急遽退職したことによるもので、当時の応急措置的対応としてはやむを得なかったともいえるが、もはやこの事態は看過しがたく、可及的速やかに適切な措置を講ずる必要がある。」
法科大学院で法律基本科目を担当する教員については,教育実績に加え,過去5年間に担当分野に関する研究業績(具体的には論文の公表)が必要とされており,これらの要件を満たさなければ法科大学院の専任教員としてカウントできないものとされています。前例としては,久留米大学法科大学院の民事訴訟法教員がこの基準にひっかかり不適合とされたことがあるのですが,久留米ローの事例と法政ローの事例を比較すると,以下のようになります。
<久留米ローの事例>
教員Aは,福岡高裁部総括判事退官に至る37年余の間,地裁及び高裁の裁判官として民事裁判実務に携わってきた,いわゆる実務家教員であり,退官後も2009年まで家事調停委員を務めている。Aは,久留米大学の法学部で民法を中心とする講義を担当しており,また久留米大学法科大学院の設立当初から実務基礎科目等を担当しており,2007年から民事訴訟法を担当するようになった。
しかし,Aは認証評価当時75歳であること,2006年9月を最後に民事訴訟法に関する研究業績を発表していないことから,2011年度以降専任教員としての適格性を有しないものと判断され,久留米大学法科大学院自身も基準不適合と判断された。
<法政ローの事例>
教員Bは,いわゆる研究者教員であるが,過去5年間はおろか,過去10年間に遡っても民事訴訟法に関する研究業績は存在しない(詳細は不明であるが,おそらく民事訴訟法を専攻としていない教員と思われる)ところ,法政大学法科大学院において民事訴訟法を専門とする専任教員が2011年度途中に急遽退職したため,代わりに民事訴訟法の科目を担当することになった。
認証評価において,Bは「民事訴訟法分野における高度な指導能力を有しているとは認められない」と判断されたものの,このような対応は当時の応急措置としてはやむを得ないものであったとして,法政大学法科大学院自身は基準に適合していると判断された。
一見して明らかに,実務家教員に対しては極めて厳しく,研究者教員に対しては甘い認証評価が行われていると感じるのは,黒猫だけでしょうか。
教員Bが何の分野を専攻しているのかは分かりませんが,一般的に法律学の研究者は縦割りの傾向が強く,例えば民法を専攻とする研究者であれば基本的に民法の分野しか研究しないので,同じ民事法であっても商法や民事訴訟法のことはよく知らないというのが一般的です。司法試験に合格している教員など個別の例外はあり得ると思いますが,一般的に民事訴訟法を専門としていない研究者教員に民事訴訟法科目を担当させるというのは,素人に担当させるのとあまり変わらないのです。
認証評価基準に適合するかという問題以前に,大学院でそのような措置が行われたら通常大問題になるはずですが,実際にそれほど問題とされていないのは,おそらく学生も法科大学院の授業には最初から期待しておらず,司法試験の受験資格を得るためには仕方ないからお金は払うけど,できれば授業は聴きたくないと思っている学生が多いからでしょう。
法科大学院の本質は,質の高い法曹を育成するものでも実務と理論を架橋するものでもなく,単に大学の研究者に食い扶持を与える目的で作られたものに過ぎないというのがよく分かる事例ですね。
<関連リンク>
1.日弁連法務研究財団
2012年度上期法科大学院認証評価の実施結果について
(対象校:久留米大学法科大学院,立教大学法科大学院,國學院大學法科大学院)
2012年度下期法科大学院認証評価の実施結果について
(対象校:大東文化大学法科大学院,福岡大学法科大学院,立命館大学法科大学院,西南学院大学法科大学院,獨協大学法科大学院,創価大学法科大学院)
2.大学評価・学位授与機構
平成24年度に機構が実施した法科大学院認証評価評価結果について(平成25年3月)
(対象校:北海道大学法科大学院,一橋大学法科大学院,新潟大学法科大学院,金沢大学法科大学院,香川大学法科大学院,熊本大学法科大学院,上智大学法科大学院,専修大学法科大学院,愛知大学法科大学院)
3.大学基準協会
2012(平成24)年度「法科大学院認証評価」の結果について
(対象校:慶応義塾大学法科大学院,法政大学法科大学院)
この法科大学院に対する認証評価の資料は,ほとんどが無味乾燥なものばかりですが,時々面白いことも書かれているので定期的にチェックしているのですが,今回は面白いというよりイラッとするお話です。
上記対象校のうち,不適合の評価を受けたのは久留米大学法科大学院だけで,他の法科大学院は適合評価とされているのですが,その中でも問題があるのは法政大学法科大学院です。認証評価報告書の3ページには,以下のような記述があります。
「第2に、教員組織に関して、貴法科大学院より提出された資料等によれば、民事訴訟法分野を担当する専任教員(研究者)については、最近5年間の当該分野に関する研究業績が存在しておらず、かつ、過去10年に遡っても当該分野に関する研究業績が存在していないことから、当該分野に関する高度な指導能力を有しているとは認められない。もっとも、当該専任教員が上記各授業科目を担当することになったのは、2011(平成23)年度途中に民事訴訟法分野を専門とする他の専任教員が急遽退職したことによるもので、当時の応急措置的対応としてはやむを得なかったともいえるが、もはやこの事態は看過しがたく、可及的速やかに適切な措置を講ずる必要がある。」
法科大学院で法律基本科目を担当する教員については,教育実績に加え,過去5年間に担当分野に関する研究業績(具体的には論文の公表)が必要とされており,これらの要件を満たさなければ法科大学院の専任教員としてカウントできないものとされています。前例としては,久留米大学法科大学院の民事訴訟法教員がこの基準にひっかかり不適合とされたことがあるのですが,久留米ローの事例と法政ローの事例を比較すると,以下のようになります。
<久留米ローの事例>
教員Aは,福岡高裁部総括判事退官に至る37年余の間,地裁及び高裁の裁判官として民事裁判実務に携わってきた,いわゆる実務家教員であり,退官後も2009年まで家事調停委員を務めている。Aは,久留米大学の法学部で民法を中心とする講義を担当しており,また久留米大学法科大学院の設立当初から実務基礎科目等を担当しており,2007年から民事訴訟法を担当するようになった。
しかし,Aは認証評価当時75歳であること,2006年9月を最後に民事訴訟法に関する研究業績を発表していないことから,2011年度以降専任教員としての適格性を有しないものと判断され,久留米大学法科大学院自身も基準不適合と判断された。
<法政ローの事例>
教員Bは,いわゆる研究者教員であるが,過去5年間はおろか,過去10年間に遡っても民事訴訟法に関する研究業績は存在しない(詳細は不明であるが,おそらく民事訴訟法を専攻としていない教員と思われる)ところ,法政大学法科大学院において民事訴訟法を専門とする専任教員が2011年度途中に急遽退職したため,代わりに民事訴訟法の科目を担当することになった。
認証評価において,Bは「民事訴訟法分野における高度な指導能力を有しているとは認められない」と判断されたものの,このような対応は当時の応急措置としてはやむを得ないものであったとして,法政大学法科大学院自身は基準に適合していると判断された。
一見して明らかに,実務家教員に対しては極めて厳しく,研究者教員に対しては甘い認証評価が行われていると感じるのは,黒猫だけでしょうか。
教員Bが何の分野を専攻しているのかは分かりませんが,一般的に法律学の研究者は縦割りの傾向が強く,例えば民法を専攻とする研究者であれば基本的に民法の分野しか研究しないので,同じ民事法であっても商法や民事訴訟法のことはよく知らないというのが一般的です。司法試験に合格している教員など個別の例外はあり得ると思いますが,一般的に民事訴訟法を専門としていない研究者教員に民事訴訟法科目を担当させるというのは,素人に担当させるのとあまり変わらないのです。
認証評価基準に適合するかという問題以前に,大学院でそのような措置が行われたら通常大問題になるはずですが,実際にそれほど問題とされていないのは,おそらく学生も法科大学院の授業には最初から期待しておらず,司法試験の受験資格を得るためには仕方ないからお金は払うけど,できれば授業は聴きたくないと思っている学生が多いからでしょう。
法科大学院の本質は,質の高い法曹を育成するものでも実務と理論を架橋するものでもなく,単に大学の研究者に食い扶持を与える目的で作られたものに過ぎないというのがよく分かる事例ですね。
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