明日(6月27日午後3時30分から),法曹養成制度改革顧問会議の第10回会議が開催される予定になっています。予備試験の受験資格制限の可否について,また新たな動きがあることでしょう。
その前に,最近の法科大学院関連の動きについておさらいしておきますが,まず,白鴎大学法科大学院が正式に学生募集を停止しました。
<参 照>
大学院法務研究科(法科大学院)の学生募集停止について(白鴎大学法科大学院)
http://hakuoh-lawschool.jp/?p=3287 この時期になっても募集や宣伝をやっていないのでたぶん募集停止するつもりだろうとは思っていましたが,案の定といったところです。
なお,募集停止を表明していない他の法科大学院は説明会等を開催しますので,平成27年度からの募集停止はおそらく白鴎ローで打ち止め,今後の募集停止は平成28年度からということになろうかと思われます。
一方,
金沢ローは定員を25人から15人に減らし,なおも踏ん張るつもりのようです。踏ん張るだけ税金の無駄遣いにしかならないので,迷惑千万といったところです。存続を歓迎する声明を出したという金沢弁護士会も国民の敵です。
ところで,第9回顧問会議で提出された資料のうち,山根香織顧問の
意見メモをまだ取り上げていませんでした。
山根顧問は,主婦連合会会長の肩書を持ち消費税増税反対などの活動を行っていますが,法科大学院に関する発言は反社会的と言ってよいくらいひどいものばかりで,その実態は文科省の傀儡に過ぎないことがよく分かります。意見メモのうち,特に重要な部分を以下にとりあげます。
○ 市民は、法曹を目指す人が質の高い教育を受け、また様々な経験を積んだことを糧とし、その上で社会で活躍することを望んでいる。十分な教育を受けたものが法曹となる制度とすることが求められる。
世間的には市民団体の一つと思われている主婦連合会会長の肩書を使って,勝手に自分の意見を「市民」の意見にすり替えています。「十分な教育を受けたものが法曹となる制度」というのは,前後の文脈に照らし「法科大学院を修了したものが法曹となる制度」という意味だと思われますが,通常の市民感覚に照らし,たとえば東京大学法学部を卒業して予備試験に合格した人が,「質の高い教育」を受けていないと言えるのでしょうか。
○ 予備試験は「経済的事情や既に実社会で十分な経験を積んでいるなどの理由により法科大学院を経由しない者にも、法曹資格取得のための適切な途を確保すべき」という司法制度改革審議会意見書の提言を受けて制度化されたものであり、「予備」という名の性格を維持し、その制度趣旨に沿うよう改める必要がある。
○ 対応として受験資格の制限はその一つの方法であり、推進室の指摘する内容についても、ひとつひとつ具体的に考えていく作業が必要である。例えば、資力要件については、本来は法科大学院へ進学するための奨学金制度の充実が求められると考えるが、この要件を予備試験の受験資格制限として考えるのであれば、具体的な線引きを想定しつつ丁寧に検討していくべきである。また、社会人経験要件を設ける案についても、一定の実務経験などが要件となっている他の制度も参考に、議論していくべきである。
○ また、予備試験は法科大学院修了者と同程度の能力を有するかどうかを判定することを目的とした資格試験とされていることから、現在の予備試験の科目や内容がそのような目的に照らして適切かといった観点からの検討も必要ではないか。例えば,選択科目を増やす、口述試験をもっと充実させるといった案を、考えてみる必要がある。
上記のうち第2段落は,予備試験の制度設計時に法科大学院推進派が主張していたことと全く同じです。普通の主婦が「一定の実務経験などが要件となっている他の制度」の例を具体的に知っているとは思えませんし,第1段落のように10年以上前の審議会意見書の内容を垂れ流すだけの意見に市民感覚など全く感じられませんので,おそらく文科省側の言うがままに自分の意見メモを書いたのか,それとも意見メモ自体を文科省側に代筆してもらったかのいずれかでしょう。
第3段落の選択科目を増やす,口述試験をもっと充実させる云々というのも,まさしく文科省側の主張を代弁しているものに過ぎませんが,例えば平成25年の予備試験を受験した法科大学院修了生716人のうち最終合格者が46人(6.4%),法科大学院在学生1497人のうち最終合格者が164人(10.9%)しかいないなど,現在の予備試験が「法科大学院修了と同等の学識及び応用能力」を測るという制度趣旨から乖離した,むしろ司法試験そのものと言ってよい難関試験となっていることは周知のとおりであり,予備試験合格者の司法修習における成績が総じて法科大学院修了者より良く,就職面でも高く評価されていることは推進室の調査で明らかにされたとおりです。
推進室も言っているとおり,これ以上予備試験の科目を増やすなどして,受験者の負担を重くすべき立法事実は何ら存在しません。
○ 予備試験の合格者数に関しては,「規制改革推進のための3か年計画」の存在が問題視されているが、この閣議決定は“両方のルートからの司法試験合格率がどちらも7~8割”となるという形での均衡を言っているのであって、法科大学院修了者の司法試験合格率が3割を切るという当時想定していなかった現状の中で、それに合わせて予備試験合格者を増加すべきと言っているものではないと考える。従って法科大学院制度の改革が進み、修了生が7~8割司法試験に合格できるようになるまでの当面の間は予備試験合格者の数を現状維持、あるいは減少させることが適当であると考える。
「規制改革推進のための3か年計画(再改定)」が閣議決定されたのは平成21年3月31日であり,直近に行われた平成20年の司法試験は既に対受験者合格率が32.9%にまで低下しており,しかも滞留受験者の増加によりさらに合格率が低下することはこの時点でも確実視されていました。
このような状況でなされた閣議決定について,法科大学院修了者の司法試験合格率が3割を切るという現状が「当時想定していなかった」ものであるとはとても言えませんね。馬鹿じゃないの。
それに,予備試験合格者の数を減少させれば,それだけ予備試験合格者の平均的な質が上がり,法科大学院修了者との差がますます開くことになりそうですが,そのような方策が「法曹となる者の門戸を狭めない」ことを要求している閣議決定の趣旨に反することは明白です。
会長が国の「有識者会議」で,平然と文科省官僚の傀儡となって彼らの求めるがままの「意見」を述べていることから考えると,山根顧問が代表を務めている
主婦連合会(1948年9月結成)も,実態は官僚組織に取り込まれた「御用市民団体」に過ぎないのでしょう。
主婦連は,「脱原発」とか「TPP反対」とか「解釈改憲反対」とか,表向き政府の意向とは異なる主張をしていますが,それは政府の立場から離れた市民団体だという外観を作るためにやっていることであり,いざというときは市民団体として政府の方針に賛成してみせることで,官僚による世論の誘導に手を貸す。これが「御用市民団体」の正体です。
「御用市民団体」の定義を以上のように捉えれば,主婦連以外にも厄介な「御用市民団体」の存在が頭に浮かんできます。そう,
日本弁護士連合会(日弁連)です。
日弁連も,普段は「死刑反対」とか「解釈改憲反対」とか「特定秘密保護法反対」とか,市民団体的な主張を繰り返していますが,法科大学院制度には賛成しており,最近も『
法科大学院公的支援見直し加算プログラムに関し地方・夜間法科大学院に対する配慮を求める会長声明』なるものを発表しています。
しかも,最近の日弁連は法科大学院制度だけではなく,通信傍受の対象拡大や司法取引,取り調べ可視化の対象から警察を除外することにも賛成する方針のようです。
<参 照>
徹底抗戦できない日弁連の存在感(元「法律新聞」編集長の弁護士観察日記)
http://kounomaki.blog84.fc2.com/blog-entry-816.html通信傍受に賛成しようとする日弁連執行部 刑事司法改革で最大の汚点(弁護士猪野亨のブログ)
http://inotoru.blog.fc2.com/blog-entry-1085.html 取り調べの可視化問題について若干付言すると,刑事事件の被疑者はまず警察官が取り調べ,警察が事件を検察庁に送致した後は検察官が取り調べます。逮捕された被疑者が警察官の強引が取り調べで意に反する虚偽の自白を余儀なくされた場合,検察官の取り調べで被疑者に違うことを言われると警察の体面に関わりますので,検察の取り調べでも同様の自白をするように警察から強迫され,そのため検察官自身は強引な取り調べをしなくても虚偽の自白を取れてしまい,そのような自白に任意性が認められるか裁判上問題になる,といったケースが結構あります。
そのため,えん罪防止の観点から取り調べの可視化を行うなら警察段階からの全過程を可視化しなければ意味はなく,検察の取り調べだけ,しかも検察にとって都合の良い部分だけを可視化しても,えん罪防止という効果は全く期待できません。
日々刑事事件の弁護活動を行い,そうでなくても司法修習で刑事司法の実態を見てきた弁護士の団体である日弁連は,そのような実情を誰よりも良く分かっているはずですが,その日弁連が普段は反体制的な市民団体を装いつつ,肝心な場面では政府の方針に賛成してみせることで,政府が進めようとしている「取り調べの一部可視化」や通信傍受,司法取引などに「お墨付き」を与え,何も知らない一般市民に「あの日弁連までが賛成しているのだから,政府がやろうとしている刑事司法改革は良いものなのだろう」という印象を与え,改革賛成の方向に世論を誘導する効果が見込まれるでしょう。
司法改革による破滅的な弁護士増員政策も,建前上は元日弁連会長である中坊公平氏が「言い出した」ものとしてお墨付きが与えられましたし,法科大学院制度も日弁連の支持によってお墨付きが与えられ,そしてこれから行われる刑事司法改革にも,日弁連のお墨付きが与えられるでしょう。
むろん,日弁連の支持なんかなくても実行できる解釈改憲などの問題では,政府は日弁連の言うことなど平然と無視していますが,政府が世論の支持を得られるかどうか自信のない問題では,普段市民団体を装っている日弁連が政府の方針に賛成して見せることで,政府の方針にお墨付きを与えます。日弁連執行部としては,それで政府に恩を売って自身の政治的影響力強化を狙っているのかも知れませんが,実際には官僚たちに都合の良い時だけ利用されているに過ぎません。
公明党と似たようなものですね。
このような
「御用市民団体」がやっていることは,戦前の大政翼賛会と基本的に同様であり,日本の民主主義にとっては有害無益でしかありません。このような「御用市民団体」の組織を維持するために,お金のない弁護士から強制的に会費を徴収するのはまさに弁護士の人権を侵害するものであり,また
日弁連の代表者が予備試験の受験資格制限に同調するような発言をする一方で,埼玉弁護士会や札幌弁護士会が予備試験の受験資格制限に反対する会長声明を発表しているといった矛盾が指摘されるなど,もはや日弁連は会員である弁護士から支持されておらず,弁護士の全国組織としての体も成していないと言えます。
今回の農協改革で,JA全中(全国農業組合中央会)は農業協同組合法による法定組織から外される方針のようですが,それならば日弁連も弁護士法による法定組織から外し,任意団体に格下げすべきではないでしょうか。
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